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家族が本当に助かる終活 物よりも情報

終活というと「家を片づけておこう」「物を減らしておこう」というイメージが先に浮かびます。でも相続の現場で、残されたご家族が本当に困るのは「物」ではなく、「情報が分からないこと」だと痛感します。

・預金口座がどこにあるのか分からない。
・不動産の名義や状態が把握できない。
・保険契約の存在を知らない。
・スマホのロックが開かず、必要な情報にたどり着けない。

こうした「情報の迷子」が、手続きを止めたり、家族の負担を大きくしたり、時には争いのきっかけになることも少なくありません。

物の片づけは誰かに頼めますが、情報の整理は、本人にしかできない終活です。

今回のコラムでは、「なぜ情報が家族を救うのか」「どんな情報を残しておくべきか」「今日からできる簡単な始め方」をやさしく整理してお伝えします。

終活のポイントは、「物」より「情報」の対策を進めること。それがご家族の大きな安心につながります。


片付けよりも先にやるべきこと

終活というと、どうしても「物の整理」から始めたくなるものです。片付けや不用品の整理は確かに大切で、早めに取り組めば家族の負担も軽くなります。でも、相続の現場では、それ以上に家族を困らせる「落とし穴」があります。

それが、「必要な情報がどこにも書かれていない、分からない」という状態です。

残された家族がなんとかしたいと思っても、「何がどこにあるのか」が分からないと、たとえどれだけ片づけがされていても、相続の手続きは一歩も動かないのです。

よくある例を挙げると、
・銀行口座が複数あり、どれをどう使っているのか不明
・ネット銀行・ネット証券の記録が紙では残っていない
・不動産の登記情報と実際の状況が合っていない
・マンションの管理費滞納が家族に知らされていなかった
・スマホやパソコンに重要情報が入っているのにロック解除ができない
・サブスクの解約ができず、延々と料金が引き落とされる

これらは「物の整理」とはまったく別の次元の問題で、片付けをどれだけ頑張っても解決しません。相続手続きが進まず、余計な費用やストレスにつながることさえあります。

終活の大きな目的は、家族に手間や面倒を残さないことです。そのためには、片付けよりも先に、「自分の情報を分かる形にしておく」ことが最優先になります。

必ず整理しておきたい「5つの情報」

家族が困らずに相続手続きを進めるためには、何をどう整理しておけばいいのか。
ここでは、終活で必ず整理したい「5つの情報カテゴリー」を簡潔にまとめます。どれも、家族の作業量とストレスを大きく左右する重要なポイントです。

① お金の情報

最も探し回る時間が多いのが、「お金の情報」です。

  • 銀行口座(使っている・休眠しているもの)
  • 証券口座(ネット証券を含む)
  • 外貨預金・NISA・iDeCoなど
  • 自動引き落としの一覧
  • 借入やカードローン

特にネット銀行は紙の通帳がないため、家族が存在自体を知らないケースが少なくありません。
口座一覧と残高は、1枚の紙にまとめておくだけで、家族の負担は劇的に減ります。

② 不動産の情報

不動産は価値が大きいぶん、情報不足が「争族」(相続争い)の火種になりやすい分野です。

  • 登記簿の記載内容
  • 持ち分(共有の場合)
  • 境界や越境の有無と取り決めた条件等
  • 管理費・修繕積立金(マンションの場合)、固定資産税額
  • 将来どう扱ってほしいか(住む/売る/貸す/残す)

特に、「登記簿が古いまま」「地番と住所の違いを家族が知らない」などのケースは、実務でもよく見かけます。不動産の情報こそ、終活で整えておくかどうかが家族の負担を大きく左右します。

③ 保険の情報

意外と多いのが、「何の保険に入っていたか分からない」というケースです。

  • 契約先(会社名)
  • 種類(医療・死亡・介護)
  • 保険金の受取人
  • 掛金の支払い方法

これらが不明なままだと、請求期限を逃してしまうことさえあります。たとえば、生命保険金の請求権の時効は「支払い事由発生の日の翌日から3年」です。生命保険は相続手続きと別ルートで請求するため、なおさら情報整理が重要といえます。

④ デジタル情報

今、相続で急増しているのが「デジタル遺品」問題です。現代の新しい相続リスクともいえます。

  • スマホのロック解除
  • PCのログイン情報
  • メール・クラウドのアカウント
  • SNSのアカウント
  • ネット証券・ネット銀行の口座と残高
  • サブスク契約の一覧

特にスマホのロックは、解除できないと相続手続きの大半が止まってしまいます。必要な情報がすべてスマホの中に入っていることも珍しくない時代、デジタル情報の整理は終活の新たな必須項目です。

⑤ 医療・介護・意思の情報

財産の情報だけでなく、自分の意思が分かる情報も相続の発生前から家族を大きく助けます。

  • 延命措置に関する意思
  • 入院・介護の希望
  • 葬儀や埋葬・お墓に関する希望
  • 遺言の有無
  • 家族へ伝えたいこと

「どうしたいか」が分かっているだけで、家族は迷わず動けるものです。財産だけでなく、心の情報も終活では大切です。

情報があると家族の負担が減るわけ

では、なぜここまで「情報」が大切なのか。理由はとてもシンプルで、相続の手続きは情報がないと進まないからです。

物が多いことよりも、情報が欠けていることの方が、家族にとっては何倍も大きな負担になります。ここでは、相続の現場で特に多い「お困りごと」を通じて、情報整理がもたらす効果を見ていきます。

「どこに何があるか分からない」

相続で家族がつまずくのは、「財産の全体像が分からない」という状態です。

預貯金、証券、保険、不動産など、これらの情報が一覧になっていると、家族は助かります。相続手続きをスムーズに進めることができます。

逆に言えば、情報がなかったり、バラバラだったりすると、手続きが進まなくなってしまいます。相続手続きの中でも重要な判断を迫られる「相続放棄」「限定承認」の申請の期限は3ヵ月、また相続税の申告・納税の期限は10ヵ月と、意外と時間は少ないのです。

「抜けや漏れ」が大きなトラブルに

たとえば、

  • ネット証券の口座が後から見つかる
  • マンションの管理費・修繕積立費の滞納が後から判明
  • 相続人が知らない借金があった
  • 不動産の登記が古いままだった

こうした「抜けや漏れ」は、見つかったタイミングによっては、遺産分割協議のやり直しなど、相続手続きが振り出しに戻るといったことにもつながりかねません。

家族からすると、「聞いていればこんな苦労はなかったのに…」という気持ちにもなりそうです。

「争族」は確実に減る

相続争い、いわゆる「争族」が起きる理由は、財産の額ばかりではありません。
多くの場合、

  • 情報が共有されていない
  • 誰も状況を把握していない
  • 相続手続きの負担が偏る

こうした状況が積み重なることがトラブルの原因となることが多いといえます。

たとえば、情報が一覧化されているだけで、「分からない」から生まれる不信感は消えます。家族の感情面にも好影響をもたらします。

専門家の支援もスムーズ

司法書士、税理士、不動産業者など専門家に依頼する場合も、情報がそろっているかどうかで、費用と時間が大きく変わります。

必要な情報が揃っていれば、

  • 調査時間が短くなる
  • 手続きの選択肢が広がる
  • 提案の精度が高くなる

そして何より、本当に必要なところに費用を使うことにつながります。終活の段階で情報がまとまっているほど、専門家の力を最大限に活かせるのです。

家族の安心につながる

物を片付けることはもちろん大切ですが、情報こそが、家族の不安を取り除く「地図」になります。どこに何があるか分かるだけで、家族は迷わず、困らず、そして早く動けるようになります。

情報の終活 4つのステップ

「終活」と聞くと、なんとなく細かな作業が大変そうと思いがちですが、でも情報の整理は、実はとてもシンプルな作業から始められます。

ここでは、特に効果が大きい 4つのステップ を紹介します。

STEP1:まずは「棚卸しリスト」をつくる

紙1枚(またはメモアプリでもOK) に、次の項目を書き出してみましょう。

  • 銀行口座・証券口座の一覧
  • 不動産一覧(住所/登記名義)
  • 加入している保険
  • 借入・ローンの有無
  • スマホ・PC関連の情報
  • 医療・介護の希望

STEP2:家族に「何がどこにあるか」を共有

すべての情報を渡す必要はありません。大切なのは「どこを見れば分かるか」を伝えておくことです。

  • 「棚卸しリスト」を保管している場所
  • パスワードを管理している方法
  • 不動産書類の保管場所
  • 医療・介護の希望を書いたメモの場所

たったこれだけで、家族の相続手続きのスタートが格段に楽になります。「全部見られるのは嫌」という人は、棚卸しリストの場所を伝えるだけでもいいと思います。

STEP3:不動産の情報は早めに「専門家チェック」

実務でトラブルが最も多いのが不動産です。だからこそ、終活の段階でプロのチェックを受けることが家族の大きな助けになります。

チェックするのは、

  • 登記簿の情報に誤りや古いままのものがないか
  • 境界・越境の状況や取り決めに問題はないか
  • 空き家になるリスクや建物の老朽化
  • 売る・貸す・取り壊すなどの方針
  • 複数所有者(共有)の扱い

不動産だけは、家族が自力で判断するのがほぼ不可能です。専門家が事前にチェックしておくことで、将来のトラブルを大幅に減らすことにつながります。

STEP4:遺言やエンディングノートで意思を形に

情報を整理したら、「自分はどうしたいのか」 を分かる形にしておくと、家族がさらに助かります。

  • 遺言書(おすすめは公正証書遺言)
  • エンディングノート
  • 医療・介護の希望
  • 家族への感謝の気持ちなど思い

特に不動産が絡む場合は、遺言で意思を示しておくと「思わぬ争族」を避けることにつながります。


まとめ

「物よりも情報」という考え方が、後々、家族を守る鍵になります。
終活というと片付けが注目されがちですが、家族が本当に助かるのは、情報です。「どこに何があり、どう扱えばいいのか」が分かることです。

情報が整理されていれば、

  • 手続きがスムーズに進む
  • 家族の負担が大幅に減る
  • 感情的な摩擦や争いを避けられる
  • 専門家のサポートを最大限に活かせる
  • 財産を、円滑に次の世代に引き継げる

終活のスタートラインは、「物より先に、情報を整理すること」です。家族の未来の負担を軽くし、安心を残すために、まずは紙1枚のリスト作りから、ぜひ始めてみてください。


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