農地の相続で困ったら 5つのチェックポイント

「親から農地を相続したけれど、自分は農業をする気はないし。どうしたらいいのか分からない…」
そんなお悩みがあるかもしれません。
農地は法律の規制が多く、自由に売ったり貸したりできないという特徴があります。
では、どのように対策を講じたらいいのか。
この記事では、農地の相続で迷ったときにまず確認しておきたい5つのチェックポイントについて、わかりやすく解説します。
チェック1:登記の状況
まず最初に確認したいのが、登記。所有権の名義人が誰かということです。
親から農地を相続したものの、登記を見てみたら所有者は祖父のままだったということがあるかもしれません。
かつては相続時の登記は任意だったので、変更の登記がされていないことがよくあったそうです。
名義人を確認したうえで、適正な相続登記の手続きをすることが大切です。
2024年に4月に、相続登記は義務化されました。
相続を知ってから3年以内に登記しなければ、過料(最大10万円)という行政罰が科される可能性があります。
これは農地でも例外ではありません。
登記が完了していなければ、売ることも貸すこともできません。
相続人の間での話し合いに時間がかかる場合もあるので、早めの対応をおすすめします。
さらに、市区町村に置かれている農業委員会への相続の届出も必要です。

チェック2:農地法の制限
農地は、「自由に売買や貸し出しができる土地」ではありません。
農地は食料の安定供給に深く関わるため、「農地法」という法律に基づいた許可や届出が必要になります。
たとえば、
・第3条の許可:農地を農地として売却や賃貸するとき
・第4条の許可:農地を宅地などに転用するとき
・第5条の許可:農地を宅地などに転用するために売却するとき
市区町村の農業委員会に申請し、条件を満たさなければ許可が下りません。
相続した農地をどのように利用するかで、必要な許可を取らなければならないということになります。
チェック3:相続税の制度
農地の相続では、相続税評価額が通常の宅地よりも低めに算出されることが多く、
「倍率方式」(固定資産税評価額 × 国が定める倍率)などで評価されます。
また、農業を引き継ぐ人が相続する場合には、相続税の納税猶予という制度もあります。
農地に関する相続税の納税が猶予され、相続人が亡くなるまで農業を続けた場合は相続税が免除されます。
ただしこの制度は適用の条件が細かく定められています。
例えばこのような条件があります。
・相続人が農業を引き継ぎ、継続すること
・亡くなった人(被相続人)が死亡するまで農業を営んでいた など
相続人が農業を引き継がない場合は、この納税猶予制度は対象外になります。
→農林水産省「農地を相続した場合の課税の特例」
チェック4:放置するリスク
「農業はしないし、しばらくそのままでいいかな…」と思って、相続した農地を放置してしまうと、思わぬリスクが降りかかるかもしれません。
農地として利用されていた土地が放置され、1年以上作物が栽培されず、今後も栽培される予定がないと、「耕作放棄地」とみなされます。
耕作放棄地は行政から指導が入ることもあります。
放置された農地には草が伸び放題になって、次のような問題が発生しかねません。
・害虫の発生
・近隣の田畑に迷惑をかける
・火災のリスク
農地を相続した際は、このようなリスクについても考えておくことが大切です。

チェック5:どうするのかの判断
相続した農地をどうするかは、相続人全員で早めに決めることが重要です。
できれば相続が発生する前に方向性を決めておくとよいかもしれません。
選択肢には次のようなケースが想定されます。
農業を引き継ぐ
相続人が農業を引き継ぐ場合は、相続税の納税猶予制度が利用できるかなども検討します。
農地として売却する
例えば、近隣の農家などに売却する場合です。農地法第3条の許可が必要になります。
農地として貸す
農林水産省が推進する「農地バンク」などを活用して借主を探せる可能性があります。
農地法第3条の許可が必要です。
宅地に転用して売却する
農地の場所によっては宅地に転用できる可能性があります。宅地として有効活用につながるかもしれません。
農地法第5条の許可が必要です。
相続放棄
農業を継がない、売却も難しい、宅地転用も難しいとう場合に、相続自体を放棄するという選択肢もあります。ただ、農地だけを放棄することはできません。
相続放棄をすると、相続財産すべてを放棄することになります。
また、相続発生から3ヵ月以内に家庭裁判所で手続きをしなければならないので、時間もあまりありません。
避けたいこと
一方で、農地の相続で避けたいのは、処理に困って結局、相続人の共有名義にしてしまうことです。
権利の移動時に相続人全員の合意が必要となってしまうので、将来の売却や相続のたびに手続きが煩雑になります。

まとめ
農地は、一般の宅地など異なり、法的な制限や管理責任があります。
「放っておこう」という判断が、大きなトラブルや費用の原因になってしまうこともあるので注意が必要です。
今回解説した5つのチェックポイントで、まずは状況を整理して対策を講じましょう。
必要に応じて、農業委員会や専門家へ相談することも検討してください。
相続人が困らない相続には、早め早めに対策を考えていくことが大切です。