空き家売却に立ちふさがる リフォーム・再建築不可の壁
実家の片づけを終えて「そろそろ空き家を売ろう」と思ったとき、想定外の「壁」に直面することがあります。
建物の老朽化そのものよりも、リフォームができない/建て替えができない(再建築不可)/住宅ローンが組めないといった、見えにくい制度上の問題が空き家売却を難しくしていることがあるのです。
特に2025年の建築基準法改正後は、小規模な木造住宅でもリフォームの際に構造審査が必須となり、古い住宅では「リフォーム不可」というケースも出てきました。
さらに国土交通省の調査では、空き家の約6割が1980年以前(旧耐震基準)の建物ということで、現行の耐震基準とのギャップが大きいことから、リフォームや建て替えのハードルが上がる傾向もあります。
このコラム記事では、空き家売却に立ちふさがる、「リフォーム不可の壁」「再建築不可の壁」「住宅ローン審査の壁」の3つを中心に、分かりやすく整理していきます。

第1章 空き家の6割が「旧耐震」
空き家が増えている背景にはさまざまな要因がありますが、その中でも売却の成否に大きく影響するのが、
「旧耐震住宅」の多さです。
国土交通省が2025年8月に公表した調査によると、空き家全体の約6割が1980年以前の建築物でした。
→国土交通省「空き家所有者実態調査結果」(2025年8月)

これは、1981年6月に導入された「新耐震基準」より前に建てられた住宅が、空き家の大半にあたることを表しています。このような旧耐震基準の時代に建築された住宅は、現在の耐震・防火・構造基準とは大きく異なる点が多くあります。
このような旧耐震基準の古い住宅は、売却を考えるうえで次のような「見えないハードル」を抱えているといえます。
新耐震基準を満たしていない可能性が高い
旧耐震住宅は「震度5強程度で倒壊しない」ことを前提にした構造で、現行の「震度6強〜7を想定した新耐震基準」とは大きく差があります。そのため、仮に耐震補強のリフォームをしようとすると、工事費が大幅に上昇するという流れになりやすいのです。
図面や増改築の履歴が残っていない
昭和〜平成初期の住宅では、増築しても図面が残っていない、さらに登記もされていないというケースが多く見られます。
2025年の建築基準法改正後は、リフォーム時に構造審査が求められるため、図面がない家では「構造が分からずリフォーム不可」という判断につながることがあります。
既存不適格で建て替えが難しいことも
旧耐震の住宅の中には、建てられた当時は適法でも、現在の接道・用途地域・防火規制に合わない「既存不適格」の状態になっているものが少なくありません。
既存不適格は、建て替えると現行基準を満たすことができないことから、実質的に建て替えが難しくなってしまうことがあります。
つまり、問題は「古い家」だから価値がないということではなく、昔の基準で建てられた家が「今の基準に合わなくなっていることにあります。それが売却の壁になっているのです。
実際に3つの壁について考えていきます。

第2章 再建築不可の壁
空き家売却で最も多い相談が、「再建築不可と言われた」というケースです。再建築不可の大半は、道路に2m以上接していない(接道義務を満たさない)ことが原因です。
接道義務は建築基準法43条に定められた基本ルールで、「建築物の敷地は幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければならない」とされています。
古い住宅地などでは、この接道義務を満たしていないことがあり、その場合、建て替えができません。空き家を購入した人が、取り壊して新しい家を建築しようとしてもできないということになってしまうのです。
よくある再建築不可のパターン
- 私道に面しているが、法的な道路扱いになっていない→ 建築可能な敷地に該当しないことになる
- 間口がわずかに足りない(1.8m・1.9mなど)→ 数十センチの差で再建築不可になることも
- セットバックが必要で、建てられる面積が減る→ 解体後に建築可能面積が小さくなる
再建築不可が売却に与える影響
- 建て替え前提の買い手はつかない
- 評価額が通常の土地より大きく下落
- 売却先は「現金購入の買取業者」が中心になる
「古家付き土地だから売れる」と思っていたら、接道の問題で建て替えができない「売却しづらい土地」だったということがあるのです。
第3章 リフォーム不可の壁
2025年の建築基準法改正でリフォームのハードルが一気に上がりました。
これまではリフォームの建築確認が不要だった木造2階建てや木造平屋(200㎡超)の住宅でも、大規模リフォーム時の建築確認が必須になりました。
→国土交通省「木造戸建の大規模なリフォームに関する建築確認手続について」(2025年2月)
大規模なリフォームの際には、構造計算書の提出や構造耐力の審査が必要となります。さらに耐震だけでなく省エネ性能についても高い基準が設けられました。
これにより、古い住宅では「大規模なリフォームが実質不可能」というケースが増えそうです。
古い空き家でリフォームが難しくなる理由
- 増改築の履歴が不明で、構造が分からない
- 防火・耐火の基準が昔のまま
- 耐震性が足りず、補強費用が高額になる
- 工事範囲が広がり、新築以上の費用になることも
よくあるケース
「部分的に直すだけのつもりが、構造審査で家全体の補強が必要と判明し、結果的にリフォームを断念……」といったケースです。
リフォームしてから売却。購入してからリフォーム。そうしたことを想定していたのに、リフォームが困難となってしまうと、売却での大きなマイナス要因になってしまいます。

第4章 住宅ローン審査の壁
空き家売却では「買い手が住宅ローンを組めるかどうか」が大きなポイントです。
銀行は「もし返済が滞ったら物件を売って回収できるか」をローン審査で重視します。再建築不可や旧耐震などは、売却しづらいため「担保価値が低い」と判断され、ローンが通らない傾向が強くなります。
旧耐震の空き家や再建築不可の土地では、住宅ローンの審査が通らず、買い手が現金購入者に限られるといったことも考えられ、売却が成立しにくくなるといえるのです。
住宅ローンが通りにくい代表例
- 旧耐震(1981年6月以前)→ フラット35では耐震基準適合証明が必要
- 再建築不可の土地→ 原則、住宅ローンNG
- 未登記部分・違反建築の疑い→ 銀行が担保評価を付けない
- 雨漏り・傾きなどの劣化がある→ 担保価値が大幅に下がる
住宅ローンが利用できないとなると、一般の買い手がつかないことが考えられます。売却価格も下がりやすく、結果、買取専門業者による想定よりもかない安い価格での買い取りが選択肢の中心となりそうです。
第5章 売却前に確認したい5つのチェック
空き家を売却しようとするとき、「思ったより値段がつかない」「買い手が見つからない」という事態の多くは、売却前の下調べ不足が原因といえます。
空き家は、築年数だけでは判断できません。これまで書いてきたような壁が立ちふさがっていることがあります。売却を前に、必ず次の5つを整理しておくことが大切です。

① 接道状況(再建築の可否)を確認する
空き家売却で最も重要なのが、接道状況の確認です。「敷地が道路に2メートル以上接しているか」「敷地が幅4メートルの道路に接しているか」という点をチェックします。接道義務は、建て替えられるかどうかを決める「分岐点」です。
現地を実際に見て、図面と照らし合わせて確認することが大切です。
② 用途地域などの制限を知っておく
空き家が建っているエリアの用途地域(住居・商業・工業など) や建ぺい率・容積率は、将来の建て替えや活用プランに大きく関係してきます。
例えば、次のような「思わぬ制限」が存在します。
- 建ぺい率が厳しい地域では、希望する規模の建物を建てられない
- 防火地域では、耐火構造を求められ、建築費が一気に上がる
- 斜線制限や日影規制で、想像より小さな家しか建たない
中古住宅市場の買い手はこうした制限に敏感で、用途地域が厳しい地域では、査定価格が伸びにくい傾向があります。
③ 既存不適格かどうかを確認する
1980年以前の旧耐震住宅が空き家の約6割を占めていて、多くは「既存不適格」となっています。
既存不適格とは、建築当時は合法だったものが、今の基準では適合しなくなった状態のことです。
典型例は、次のようなケースです。
- 道路幅が狭くなり、接道条件を満たさなくなった
- 防火地域に指定され、建替え時に耐火構造が必須に
- 建ぺい率・容積率が現在の基準より超えてしまっている
これらは、建物を建てた後に、制度が変わったことから発生した、所有者にはどうしようもない状況です。しかし、この状態だと、リフォームや建て替えの自由度が大きく制限されるため、売却時の価格に直結してしまうのです。
④ リフォーム時に建築確認ができるかどうか
2025年の建築基準法改正後は、木造2階建てなどの小規模住宅でも増改築・リフォームの際に建築確認が求められるようになりました。
買い手は「リフォーム前提で購入したい」と考えることが多いので、大規模なリフォームや増改築がそもそも可能なのか、建築確認自体を申請することができるのかどうかをあらかじめチェックしておくことが重要です。
図面がない場合や建築確認をしていない増改築がある場合は、大規模なリフォームがかなり難しくなるので、売却価格にも大きく影響することになります。
⑤ 買い手が住宅ローンを使えるかどうか
売却の最後の関門が、住宅ローン審査です。
再建築不可・旧耐震・増築未登、こういった条件があると、金融機関が担保評価を下げ、住宅ローンが組めないケースが出てきます。
買い手がローンを使えないということは、現金購入者にしか買えないということになってしまいます。これは価格にも、売却のスピードにも直結します。
第6章 出口戦略
問題点をつかめば「売れる道」は必ず見えてくるはずです。
空き家の売却は、「何が問題なのか」が見えた時に、選べるルートが一気に広がります。
再建築不可でも、旧耐震でも、リフォーム不可でも、実務ではそれぞれに合った「出口」があります。
状況さえ整理できれば、思わぬルートが見えてくることも少なくありません。ここでは、空き家売却で現実的な3つの出口戦略を解説します。
更地にして売却する
古い空き家の中には、建物を残したままだと接道問題で建て替えできないケースがありますが、建物を解体して更地にした後、セットバックをすることで建築可能となる土地は意外とあります。
セットバックとは接している道路の幅が狭い場合に、敷地を道路側から少し後退させて、将来的に道路幅4メートルを確保できるようにすることです。セットバック部分は「道路扱い」になるので、建物や塀などが建てられません。ただ、セットバックをすることで、接道問題をクリアして再建築可能となるケースはあります。
再建築不可専門の買取業者に売却する
再建築不可の空き家は、一般の買い手にはなかなか手が出せない物件です。そのため市場が大きく狭まります。
そこで力を選択肢となるのが、「再建築不可専門の買取業者」 です。最近はこうした難しい物件を扱う専門業者が増えています。売却価格は下がってしまうことが多いのですが、売却までのスピードが早く、現金で買い取ってくれることも多いというメリットもあります。
空き家が何年も売れずに、固定資産税の支払いや管理修繕費の負担が大きいと感じている方にとっては、「現実的な」出口になりそうです。
専門家に相談し「問題点を見える化」する
空き家の売却は、建て替え基準、リフォーム基準、道路条件、既存不適格、ローン評価などなど、複数の専門分野が重なる「立体的な問題」を抱えるケースが多いといえます。
だからこそ、まずは不動産業者・建築士・金融機関などの専門家に相談し、物件の状況を整理することが一番の近道となります。
スムーズな空き家売却のためにも、課題となりそうな点を専門家に洗い出してもらい、「見える化」することが大切です。

まとめ
空き家が「売れない」背景には、リフォーム不可・再建築不可・ローン不可という見えない壁が関わることが少なくありません。
特に、旧耐震の空き家や接道に課題のある物件は、2025年のルール改正後、判断がより難しくなっています。
売却の前に、現地調査と専門家への相談で状況を整理すること。問題点が分かれば、出口戦略は必ず見えてきます。
