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相続手続きを効率化する「法定相続情報一覧図」とは

「相続手続きは、なぜこんなに疲れるのか。」

その原因の多くは、役所や銀行の窓口で手渡す「戸籍の束」にあります。

被相続人(亡くなった人)の出生から死亡まで、改製原戸籍除籍を含めてすべての戸籍を揃えると、その厚みは数センチになることもあります。最近では「広域交付」サービスによって、以前より取得しやすくはなりました。しかし、本当の手間はその先にあります。

銀行の窓口で戸籍を預け、担当者が一枚ずつ相続関係を確認し、コピーを取り終えるのを待つ。一つの手続きが終われば、次は別の窓口で同じ作業が繰り返されます。

相続手続きは、知識としての「難しさ」以上に、この繰り返される待ち時間という物理的な手間が、静かに負担として積み重なっていきます。

では、この手続きを、より効率よく進める方法はないのでしょうか。

その答えの一つが、法務局が発行する1枚の証明書、「法定相続情報一覧図」の活用です。


法定相続情報一覧図とは|制度の概要を解説

「法定相続情報一覧図」とは、被相続人の出生から死亡までの戸籍をもとに、法定相続人の関係を一覧にまとめた図を、法務局が公的に証明する制度です。

正式名称は「法定相続情報証明制度」。2017年に創設されました。2024年に相続登記が義務化されたことを受けて、あらためてその使い勝手のよさが注目されています。
   →法務局「法定相続情報証明制度について」

相続人が戸籍一式と相続関係説明図を法務局に提出すると、内容を確認したうえで、認証文付きの「法定相続情報一覧図」が交付されます。

この一覧図は、戸籍の束に代わる公的な証明書として、金融機関や法務局などの手続きで利用することができます。写しは必要な枚数だけ無料で発行してもらうことができ、交付から5年間有効です。

重要なのは、この制度が「戸籍を集めなくて済む制度」ではないという点です。

法定相続情報一覧図を作成するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて収集し、法務局に提出する必要があります。つまり、戸籍収集という作業そのものが不要になるわけではありません。

あくまで、集めた戸籍の内容を一覧図として整理し、公的に証明してもらう仕組みです。

法定相続情報一覧図の作り方と取得方法

法定相続情報一覧図は、次の流れで作成・取得します。
   →法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続きについて」

1.戸籍を収集する

まず、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて集めます。相続人の現在の戸籍も必要です。この戸籍収集は、相続手続きにおいて必ず必要となる作業です。一覧図を作るかどうかにかかわらず、避けて通ることはできません。

また、一覧図に被相続人や相続人の住所を記載する場合には、住民票や戸籍の附票など、住所を証明する書類の提出が必要となります。住所の記載は必須ではありませんが、相続人の住所を載せておけば、不動産の登記手続きで「住民票」の提出を省略できる場合が多く、さらに効率的です。

2.相続関係説明図を作成する

一覧図のサンプル。下の空白部分に、登記官による認証文が記載されます

集めた戸籍をもとに、被相続人と相続人の関係を申請人が相続関係説明図(一覧図の原稿)にまとめます。いわば「家系図」のようなものですが、法務局の様式に沿って作成する必要があります。
   →法務局「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」

記載内容に誤りがあると差し戻しになることもあるため、正確さが求められます。(軽微な誤りの場合は、申請人に確認のうえで法務局で修正してくれることもあります。)

3.法務局へ申出をする

戸籍一式と相続関係説明図、申出書などの必要書類をそろえて、法務局へ提出します。手数料はかかりません。審査のうえ問題がなければ、認証文付きの「法定相続情報一覧図」が交付されます。

また、法務局の窓口に行かずに、郵送での申出・受取も可能です。

交付までの期間は、通常およそ1ヵ月程度が目安となります。相続手続きの都合上、急いでいる場合に、そのことを告げると、交付が早まることもあります。

4.必要な枚数の写しを取得する

交付された一覧図は、必要な枚数の写しを無料で発行してもらえます。必要な枚数は申請時に、申請書に記入しておきます。枚数は、手続きが必要な金融機関や役所の数によって変わりますが、10枚〜20枚程度を発行してもらうことが多いようです。

複数の金融機関や法務局で同時に手続きを進める場合に便利です。


ここで押さえておきたいのは、戸籍の収集と一覧図作成は切り離して考えるものではない、という点です。
相続手続きでは、どうしても戸籍を集める必要があります。戸籍を集めたら、そのタイミングで一覧図まで作成しておくほうが、結果としておすすめです。

法定相続情報一覧図のメリット|相続手続きが効率化する理由

法定相続情報一覧図の最大のメリットは、相続手続きを「まとめて整理できる」点にあります。
単に書類の束が1枚になるという話ではありません。手続き全体の流れも変わります。

1.戸籍の束を1枚に集約できる

通常、金融機関や法務局では相続手続きの際に、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を提出します。法定相続情報一覧図があれば、戸籍一式の代わりに、この一覧図の写しを提出することができます。

重い書類の束を持ち運ぶという物理的な負担が減るだけでなく、「取り扱いに気を遣う書類を持ち歩く」という心理的な負担も軽くなります。

2.窓口での確認時間が短縮される

金融機関では、担当者が戸籍をすべて確認し、相続関係を読み解く作業が行われます。また、戸籍のコピーを取った後に、原本を返してくれる場合もありますが、その場合でも、窓口ごとに30分〜1時間待たされることになります。

一覧図があれば、法務局で確認済みの相続関係が1枚で示されるため、確認作業がスムーズになります。その結果、窓口での待ち時間が短くなり、手続きのスピードアップにつながります。

3.複数の手続きを同時に進められる

手続きで戸籍の原本を提出すると、返却されるまで、別の手続きに使えないことになります。戸籍のセットを複数取得することもできますが、そのためにはかなりの費用がかかります。

一覧図の写しを複数枚取得しておけば、銀行、証券会社、年金事務所、法務局など、複数の手続きを同時並行で進めることが可能です。相続人が多い場合や、手続き先が複数に及ぶ場合ほど効果を発揮します。

4.公的手続きでも活用できる

法定相続情報一覧図は、金融機関だけでなく、下記のような公的な手続きでも利用できます。
  ・相続登記(不動産の名義変更)
  ・年金の手続き
  ・相続放棄や限定承認の申述(申請)

利用範囲が広いことも、効率化につながる大きな要素です。


法定相続情報一覧図は、単なる「便利な書類」ではありません。相続手続きの流れをスムーズにし、効率化するためのツールとなります。

法定相続情報一覧図のデメリットと注意点

法定相続情報一覧図は便利な制度ですが、効率化できる部分と、これまでと変わらない部分があることを理解しておく必要があります。

1.戸籍収集は避けられない

一覧図を作成するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて集める必要があります。戸籍収集そのものが不要になるわけではありません。あくまで、集めた戸籍の内容を一覧化して証明する制度です。

2.相続関係説明図を作成する手間がある

一覧図は、法務局が作成してくれるものではありません。戸籍の内容をもとに、申請人が相続関係説明図(一覧図の原稿)を作成する必要があります。記載ミスや添付書類の不足があると、差し戻しや書類の追加提出を求められることもあります。

3.交付まで時間がかかる

法務局へ申出をしてから、交付まで通常およそ1ヵ月程度かかります。急ぎの手続きがある場合には、一覧図の交付を待たずに戸籍で手続きを進めるほうが早いケースもあります。

4.相続分や遺産分割の内容は証明しない

法定相続情報一覧図が示すのは、あくまで「法定相続人が誰か」という関係のみです。相続分の割合や、遺産分割の内容、相続放棄の有無などを証明するものではありません。必要に応じて、遺産分割協議書や相続放棄受理証明書など、別途書類が必要となります。


つまり、法定相続情報一覧図は「相続手続きのすべてを解決する書類」ではありません。手続きの一部を効率化するための制度と理解することが大切です。

「戸籍の収集がたいへん」「一覧図の原稿を作成する手間がかかる」といった場合に、司法書士や行政書士などの専門家に、作業を依頼することも可能です。

法定相続情報一覧図を作るケース・作らないケース

法定相続情報一覧図は便利な制度ですが、すべての相続で必須というわけではありません。相続手続きの内容や規模によって、作るべきケースと、必ずしも必要ではないケースがあります。

作成をおすすめするケース

次のような場合には、一覧図を作成しておくメリットは大きいでしょう。
  ・金融機関が複数ある
  ・証券口座や保険など手続き先が多い
  ・不動産があり相続登記が必要
  ・相続人が複数いる
  ・同時並行で手続きを進めたい

手続き先が3ヵ所以上になる場合は、戸籍の束を何度も提出する手間を考えると、一覧図を作成しておくほうが効率的といえます。

必ずしも必要ではないケース

一方で、次のようなケースでは、一覧図を作らなくても対応できる場合があります。
  ・金融機関が1行だけ
  ・不動産がない
  ・相続人が少なく、関係が明確
  ・急ぎの手続きで、一覧図の交付を待てない


このような場合は、戸籍一式でそのまま手続きを進めたほうが早いこともあります。


重要なのは、「制度があるから使う」のではなく、「必要だから使う」という視点です。法定相続情報一覧図は、相続手続きを効率化する有効なツールですが、目的に応じて使い分けることが大切です。


相続をスムーズに進めるために知っておきたいこと

法定相続情報一覧図は、相続が始まってから初めて知る方も少なくありません。しかし、制度の存在を知っているだけで、動き方は大きく変わります。

相続が発生したら、まず戸籍を集める。そのタイミングで一覧図まで作成するかどうかを判断する。この「一手間」を意識するだけで、手続きの流れは整います。

終活の場面で具体的に一覧図を作ることはできませんが、家族が手続きを始めるときに備えて、制度の存在を共有しておくことは意味があります。

相続手続きは、売却や分配といった次の判断に進む前の「整理の段階」がとても重要です。法定相続情報一覧図は、その整理を効率化するための一つの選択肢にすぎません。けれども、知っているかどうかで、手続きの負担は確実に変わります。

相続を「難しいもの」にしないために。まずは、制度を正しく理解することから始めてみてはいかがでしょうか。


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