相続の財産調査が変わる 所有不動産記録証明制度の使い方と注意点
相続のご相談を受けていると、「親がどんな不動産を持っていたのか、実はよく分からない」という声をよく耳にします。
固定資産税の通知を見ても全部は把握できない。昔住んでいた土地や、親が管理していた畑・山林の行方が分からない。そんなまま、相続手続きを進めてしまうケースも少なくありません。
これまで、不動産の調査は市区町村ごとの「名寄帳」などに頼らざるを得ず、全国に点在する土地や建物をすべて把握するのは、簡単ではありませんでした。
こうした悩みを解決できるかもしれない新しい制度が、2026年2月からスタートしました。
それが、「所有不動産記録証明制度」です。


なぜ不動産調査は難しいのか
では、なぜ相続の際の不動産調査は大変なのでしょうか。
大きな理由の一つは、これまでの仕組みが「全国対応」ではなかったことにあります。
従来、不動産の所有状況を調べる方法として使われてきたのが、市区町村が管理している「名寄帳」です。名寄帳を取得すれば、その自治体内にある不動産については確認できます。
しかし、別の市区町村にある土地や建物については、それぞれの自治体に個別に請求しなければなりません。つまり、
・転勤や転居が多かった
・実家以外に土地を持っていた
・地方に先祖代々の土地がある
といったケースでは、調査だけで大きな負担になります。
さらに、住所変更が登記に反映されていない場合や、古い名義のまま放置されている不動産も少なくありません。
こうした事情が重なり、「調べきれない」「見落としてしまう」という事態が起きてしまうのです。
背景にある「所有者不明土地」の課題
不動産調査の難しさが積み重なった結果、全国で「所有者不明土地」が問題となっています。
所有者不明土地とは、登記簿を見ても所有者がすぐに分からない、あるいは連絡が取れない土地のことです。
現在、その面積は九州に匹敵する規模ともいわれており、2040年には北海道並みに拡大するとの推計もあります。
→参照:一般財団法人国土計画協会「所有者不明土地研究会最終報告」(2017年)
相続登記が行われないまま放置され、世代交代を重ねるうちに誰の土地か分からなくなってしまう。こうした問題を放置すれば、地域の管理や再利用にも大きな支障が生じます。
所有不動産記録証明制度は、この「所有者不明土地問題」を減らすことを目的として、整備された制度でもあるのです。
所有不動産記録証明制度とは
では、「所有不動産記録証明制度」とは、どのような制度なのでしょうか。
この制度は、登記所(法務局)が管理している不動産の登記情報をもとに、特定の人が所有している不動産を、全国単位で一覧にして確認できる仕組みです。2026年2月にスタートしました。
→法務省「所有不動産記録証明制度とは」
これまで、不動産の調査は市区町村ごとに「名寄帳」を取得する必要がありましたが、この制度を利用することで、全国に点在する不動産をまとめて把握できるようになりました。
請求できるのは、原則として所有者本人のほか、相続人などの正当な利害関係を持つ人です。
申請は、法務局の窓口で直接請求するほかに、郵送やオンラインでも可能です。
受け取り方法は、法務局の窓口か郵送となります。
手数料は、検索条件1件につき、1通あたり、次のように定められています。
| 書面請求 | 窓口交付 | 1,600円 |
| オンライン請求 | 郵送交付 | 1,500円 |
| オンライン請求 | 窓口交付 | 1,470円 |
たとえば、法務局の窓口で請求する場合(書面請求)に、検索条件を4件指定して証明書を1通としたときに納付する手数料は、4件×1,600円(1通分)で6,400円となります。
申請を行うと、
・不動産の所在地
・地目や種類
・登記された名義
・登記年月日
などが一覧としてまとめられた証明書が交付されます。
相続の場面では、この一覧を確認することで、「どこに、どんな不動産があるのか」を早い段階で把握できるようになります。
これまでの名寄帳との違いをまとめました。

相続手続きでのメリット
では、所有不動産記録証明制度を利用することで、相続の手続きでは、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
最大のメリットは「不動産の抜け漏れを防ぎやすくなる」という点です。相続手続きでは、まず被相続人の財産を正確に把握することが重要です。
ところが、不動産は一括で確認できる資料がありません。そのため、
・昔に取得した土地
・遠方にある不動産
・家族も把握していなかった物件
などが見落とされてしまうケースも少なくありません。
所有不動産記録証明制度を使えば、登記されている不動産をまとめて確認できるため、こうした見落としのリスクを大きく減らすことができます。
新制度の注意点
便利な所有不動産記録証明制度ですが、注意しておきたい点もいくつかあります。
この制度は「万能な調査ツール」ではありません。過信してしまうと、かえってトラブルにつながる可能性もあります。

注意点① 住所変更
まず、最も注意したいのが「住所変更」です。
この制度は、登記簿に記載されている「氏名」と「住所」をもとに検索されます。そのため、過去に何度も引っ越しをしていた場合や、住所変更の登記がされていない場合には、検索から漏れてしまい、一覧に表示されないことがあります。
特に、
・転勤が多かった
・実家と別に住民票を移していた
・長期間、住所変更をしていなかった
といったケースでは注意が必要です。
住所変更の記録をさかのぼって、検索条件を可能な限り広げることが重要です。具体的には、住民票の除票や戸籍(除籍や改製原戸籍を含め)の附票、過去の登記情報などを調べる作業が不可欠です。
注意点② 氏名変更
次に、「氏名の変更」も見落とされがちなポイントです。
結婚や離婚などで姓が変わっている場合、古い名義のまま登記が残っている不動産は、検索から漏れてしまう可能性があります。
注意点③ 未登記物件
また、この制度は「登記されている不動産」が対象です。
つまり、
・未登記の建物
・相続登記がされていない土地
・古いまま登記が放置されている共有不動産
などは、一覧に反映されないことがあります。
実務の現場では、こうした未整理物件が、後から見つかるケースも珍しくありません。
早めに進めたい3つの準備
所有不動産記録証明制度は、相続が発生してからでも利用できます。しかし、できれば相続前の元気なうちから、次のような準備をしておくことが理想です。
① 住所の履歴を整理しておく
転居が多かった方ほど、過去の住所情報が重要になります。住民票の除票や戸籍の附票などを事前に把握しておくことで、調査がスムーズになります。
② 不動産の登記内容を確認しておく
登記簿を確認すると、
・住所が古いまま
・共有名義になっている
・名義変更がされていない
といった問題が見つかることもあります。
早めに気づけば、生前のうちに対応できるケースも少なくありません。
③ 家族と情報を共有しておく
どこに、どんな不動産があるのか。誰が管理しているのか。
こうした情報を家族と共有しておくだけでも、相続時の混乱は大きく減ります。
「そのうち話そう」ではなく、元気なうちに話しておくことが大切です。

まとめ
「所有不動産記録証明制度」は、相続の財産調査を大きく変える可能性を持つ新しい制度です。これまで見つけにくかった不動産を、全国単位で確認できる点は大きな進歩といえるでしょう。
一方で、この制度だけですべてが解決するわけではありません。住所や名義の問題、未整理の不動産など、実際にはさまざまな課題が残っています。
だからこそ大切なのは、制度を正しく理解し、上手に使いこなすことです。
そして必要に応じて、専門家のサポートを受けながら進めていくことです。
相続は人生の中でもあまり経験することのない手続きです。後悔のない形で進めるためにも、早めの準備と情報整理を心がけていきましょう。

