相続の秘策 不動産の組み替え

「分けにくい自宅」を「分けられる資産」に変える
「自宅が一番大きな資産なのに、分けられない…」
これは不動産相続の現場でよく耳にするお悩みです。
相続財産の多くを占めるのは「不動産」ですが、不動産は分割しづらい資産なので、相続人が公平に分けるのが難しくなりがちです。
特に「親が住んでいた家」が含まれるケースでは、感情的な要素も重なり、相続人の間の話し合いが長期化・泥沼化することも少なくありません。
そこで注目されているのが、「不動産の組み替え」という相続対策です。
たとえば、自宅を売却し、複数の区分マンションや不動産小口化商品に「資産の形」を変えることで、「分けやすさ」や「税負担の軽減効果」を高めることができます。
今回は、その秘策ともいえる「不動産の組み替え」について、具体的な方法とメリット、注意点をわかりやすく解説します。

分けられない自宅が相続トラブルの火種に
「自宅」や「実家」は相続資産の中でも「分けにくい資産」の代表格です。
相続人が複数いる場合、「誰が相続するか」「ほかの相続人にはどう公平に分けるか」といった問題が発生しがちです。
たとえば、長男が実家を相続したいと希望する一方で、他の兄弟は「現金で分けてほしい」と主張するケースでは、お互いが考えを変えず対立が深刻になり、トラブルに陥ることも少なくありません。
「組み替え」という相続対策
「不動産の組み替え」とは、自宅などの不動産を売却し、その資金で別の不動産や小口化商品に再投資することです。
不動産資産の形を変えることで、より分けやすく、より柔軟な相続対策が可能になります。
相続財産を明確に分けられるようにすることで、相続トラブルのリスクも減りそうです。
複数の区分マンションへの組み替え
自宅を売却した資金で、複数のマンションなどを購入する方法です。
たとえば、配偶者と子が2人いる場合に、2LDKなど広めのマンションとワンルームマンションを2つ購入します。
購入後、2LDKのマンションに住み替えて配偶者と暮らし、ワンルームマンションは賃貸に出すことで賃料収入を得ます。
相続が発生し、配偶者と子2人が相続人になった際には、配偶者が2LDKのマンションを相続し、そのまま生活を続けます。子2人はワンルームマンションをそれぞれ相続します。
このように、相続人がそれぞれ個別の不動産を相続することができるようになります。

メリット
✔️ 相続人ごとに不動産を分けられる
✔️ 賃料収入を得られる
不動産小口化商品への組み替え
もう一、最近注目されているのが「不動産小口化商品」です。
これは大型のマンションや商業施設などの不動産を小口に分割して販売する投資用商品で、100万円単位などで所有できるものが多く出ています。
中には数万円から投資できるものもあります。
ここ数年、不動産小口化商品の市場も拡大しています。
2023年には新規の投資額が2,700億円を突破しました。
→国土交通省「不動産特定共同事業の利活用促進ハンドブック」(2023年7月)

たとえば、自宅を売却した資金で複数口の不動産小口化商品に投資します。
相続が発生した際には、それぞれの相続人が配分に応じた口数を相続することができます。

不動産の所有権を持つことができる小口化商品の場合は、相続税の評価額を下げる効果もあるので、相続税の負担を軽減することも期待できます。
→詳しくはこちらのコラム記事「『不動産小口化商品』の相続リスク」
メリット
✔️ 少額単位で分けられる
✔️ 商品の管理や運用は運用会社がするので、管理の手間がかからない
✔️ 商品によっては相続税の負担軽減効果
一方、注意点としては、商品の仕組みや運用会社の信頼性などをよく確認する必要があります。
デメリットや注意点も
「不動産の組み替え」は効果的な相続対策と言えますが、リスクやデメリットも存在します。
・自宅を手放すという心理的な負担
・賃貸物件の空室リスクや修繕などの管理コスト
・小口化商品の運用や換金性のリスク
・不動産の売却と再購入に伴う諸費用(手数料、税金、登記費用など)
また、相続を円満に進めるためにも家族全体での話し合いも大切です。

まとめ
相続を「争続」(遺産争い)にしないために、大切なのは「分ける備え」です。
「分けやすい形」に資産を変える「不動産の組み替え」は、有効な対策となります。
相続対策では、現金化することだけが答えではありません。資産の特性や家族の状況に合わせて「形を変える」という柔軟な対応も、役立つ「秘策」になるのかもしれません。