相続の相談で、最初に不動産の話をしてはいけない理由
「親の家、売ったほうがいいですか?」
相続の相談を受けていると、こうした質問から話が始まることが少なくありません。空き家になる前に何とかしたい。家族に迷惑をかけたくない。そう思って動き出した結果、不動産の話が最初に出てくるのは、とても自然なことです。
ただ、少し立ち止まって考えてください。家を「売るか」「残すか」を考える前に、まだ整理されていないことはないでしょうか。
実は、相続の相談でつまずきやすいのは、知識不足よりも順番の問題です。不動産の話が早すぎると、家族の意向やお金の全体像が整理されないまま話が進み、結果として「話が噛み合わない」「結論が出ない」という状態に陥りがちです。
このコラムでは、相続の相談でなぜ最初に不動産の話をしてはいけないのか、そして、どんな順番で考えると判断がしやすくなるのかを、わかりやすく整理します。


なぜ相続の相談で「不動産」から話してしまうのか
相続の相談というと、多くの人が真っ先に思い浮かべるのが「家」です。
親が住んでいた実家や、将来空き家になりそうな不動産は、目に見えて存在感があり、放置すると問題になりそうに感じられます。実際、相談の場ではこんな言葉から話が始まることがよくあります。
「親の家、売ったほうがいいでしょうか」
「空き家になる前に動いたほうがいいですよね」
こうした問いの背景にあるのは、「何もしないまま時間が過ぎるのが不安」「家族に迷惑をかけたくない」という、ごく自然な気持ちです。
不動産は、相続財産の中でも特に目立つ存在です。評価額や市場価格も調べやすく、「ここをどうするか決めれば話が進む」と思ってしまいがちです。
ただし、ここに落とし穴があります。家をどうするかを決める前に、まだ整理されていない前提が残っているケースがほとんどなのです。
たとえば、
・相続人は誰で、何人いるのか
・住み続けたい人はいないのか
・相続税は本当にかかるのか
・急いで現金化する必要があるのか
こうした前提があいまいなまま「売る・売らない」を考えても、話は途中で噛み合わなくなります。家を売るか残すかは本来、事情が整理された「あと」に考える話だからです。

不動産の話を最初にすると、なぜうまくいかないのか
不動産の話を最初にしてしまうと、相談は一見前に進んでいるようで、実は大切な部分が置き去りになります。売るのか、残すのか、貸すのか。選択肢は増えますが、判断の軸が定まらないまま話が広がってしまうのです。
たとえば、こんなケースがあります。
相続人が3人いる中で、
・1人は「売って現金で分けたい」
・もう1人は「将来使うかもしれないから残したい」
・残りの1人は「特に考えていない」
この段階で不動産の売却の話を始めても、結論は出ません。なぜなら、誰が最終的に判断するのか、何を優先するのかが決まっていないからです。
さらに、不動産の話が先行すると、数字の見え方も歪みがちです。相続税がかかると思い込んで売却を検討していたものの、実際に試算してみると、相続税はかからない。固定資産税や管理費を含めても、年間の負担は数十万円程度だった、ということも珍しくありません。
この場合、「急いで売る理由」はほとんどありません。しかし最初に「売却ありき」で話が進んでしまうと、後戻りしにくくなります。
不動産の話を最初にすると起きやすいのは、つぎのようなズレです。
・家族の本音が出ないまま話が進む
・税金やお金の全体像が後回しになる
・結論が出ないまま時間だけが過ぎる
だからこそ、不動産の話を後回しにするのは、慎重に考えるための自然な順番なのです。先に整理すべきことを整理すれば、不動産の選択肢はあとから自然に絞られていきます。
不動産の前に、整理しておくべき3つの前提
不動産の判断に入る前に、最低限ここだけは整理しておきたい、という前提が3つあります。

前提① 家族の状況と意向
まず整理したいのは、「誰が関係者で、誰がどう考えているのか」です。
・相続人は誰で、何人いるのか
・実家に住み続けたい人はいないか
・判断を主導する人は誰なのか
ここが共有されていないと、不動産の話を始めた瞬間に意見が割れます。とくに「本当は住みたい」「売る前提だと思って黙っていた」といった本音は、後から出てくるほど話をこじらせます。
前提② お金の全体像
次に整理したいのが、お金の話です。
多くの人が「相続=相続税がかかる」と思いがちですが、実際に相続税が課税されるのは全体の1割程度です。
確認したいポイントは、
・相続税が本当にかかるのか
・不動産以外の資産や負債はどれくらいあるのか
・現金化を急ぐ必要があるのか
ここを一度整理するだけで、「売らなければならない」という思い込みがなくなることも少なくありません。
前提③ 時間軸
最後は、時間の問題です。
今すぐ決めなければならない話なのか、それとも数年かけて考えられる話なのか。
・親の意思確認ができる状況か
・空き家になるのはいつ頃か
・管理や維持は当面可能か
時間的な余裕があると分かれば、選択肢は一気に広がります。逆に、ここを確認せずに不動産の結論を急ぐと、必要以上に選択肢を狭めてしまいます。
「整理役」がいないと、相続の話は迷子になる
相続の相談には、さまざまな専門家が関わります。税金のことは税理士、不動産のことは不動産会社、登記は司法書士。それぞれが必要な存在ですが、それぞれが見るのは自分の専門分野です。
そのため、全体を整理する人がいないまま相談を始めると、話は少しずつズレていきます。不動産会社に相談すれば「売るかどうか」の話になり、税理士に相談すれば「税金がいくらかかるか」が中心になります。どれもその部分だけを取れば間違いではありませんが、「そもそも何を決めるべき段階なのか」が共有されていないと、判断はちぐはぐになります。
結果として起こりやすいのが、次のような状態です。
・専門家の意見が食い違って見える
・家族の話し合いが前に進まない
・決めたはずの方針が途中で揺らぐ
ここで必要なのは、答えを出す人ではありません。判断の順番を整える役割の人(=整理役)です。家族の状況、お金の全体像、時間軸。これらを一度整理したうえで専門家に相談すれば、それぞれの助言は、驚くほど噛み合うようになります。

まとめ|不動産は、整理の先で自然に見えてくる選択肢
相続の相談で大切なのは、スピードでも結論の早さでもありません。どの順番で考えるかです。
家を売るか残すかは、事情が整理された「あと」に初めて考える話です。不動産の話を後回しにするのは、慎重に考えるための自然な順番にすぎません。
家族の状況を整理し、お金の全体像を把握し、時間的な余裕を確認する。この順番を踏めば、不動産の選択肢は自然と絞られていきます。
相続の相談で迷ったときは、「何をするか」よりも、「何から考えるか」を、いま一度立ち止まってみてください。

