コラム
コラム
SCROLL

法務局の遺言書保管でよくあるミスと不動産トラブル

「法務局に預ければ、遺言書はもう安心。」
そう思われている方は少なくありません。

たしかに「自筆証書遺言書保管制度」は、紛失や改ざんを防げる便利な仕組みです。ですが、法務局が確認するのは形式面だけです。内容が正確か、実務で使えるかまでは確認しません。

特に不動産の記載は専門性が高く、地番と住所の違い、複数筆の有無、建物の書き漏れなど、つまずきやすいポイントが多い分野です。誤ったまま保管され、いざ相続開始となった後に大きなトラブルとなるケースもあります。

このコラム記事では、遺言書の保管制度のポイントとよくある記載ミス、その結果生じる不動産トラブルとその実務的な対策などをわかりやすく解説します。


法務局の遺言書保管制度とは

自らが自筆で作成する「自筆証書遺言」は手軽に作れますが、亡くなった後に発見されなかったり、一部の相続人などに改ざんされたりするといったリスクがあります。
その弱点を補うため2020年にスタートしたのが「自筆証書遺言書保管制度」です。制度開始以来、利用件数は年々増加しています。

出所:法務省民事局「遺言書保管制度の利用状況」から筆者作成

この制度では、法務局が、次のチェックをして遺言書の原本を保管します。

  • 本人確認
  • 方式の確認(自書、日付、署名押印など)

保管申請の手数料は3,900円です。事前予約をして、遺言者本人が法務局へ出向いて手続きをします。

   →詳しくはこちら:法務省「自筆証書遺言書保管制度のご案内」

また、相続開始後の「検認」が不要になるというメリットもあります。
通常、自筆証書遺言は、家庭裁判所で「検認」という手続きを経なければ効力を発揮しません。

一方、法務局で保管された遺言書は保管時に方式チェックが済んでいるため、裁判所の検認を経る必要がありません。相続人の負担が軽くなり、手続きの時間も短縮できます。

しかし、(この点が重要なのですが、)法務局では内容については審査しません。つまり、遺言書の内容が適切かどうかは一切、チェックされることはありません。

たとえば、不動産の地番の誤り、建物の書き漏れ、遺贈と相続の書き分けミスなど、内容の実務的な妥当性は確認されません。そのような「不適切な」遺言書でも、そのまま「形式上は問題なし」として保管されてしまいます。

特に不動産の表記は専門性が高く、誤記がそのまま将来のトラブルへ直結します。

遺言書で起きやすい不動産の記載ミス

遺言書の財産表記の中で、もっとも誤りが多いのが不動産とされています。
その理由は、不動産が日常の住所ではなく「登記簿の表記」で管理されているためです。

不動産は「登記事項証明書のとおりに」書く

これが遺言書の作成で忘れてはならないルールです。
登記事項証明書(登記簿謄本)の「地番」と異なる表記をしてしまうと、相続登記の申請がうまくいかず、遺言の執行に支障をきたすことになりかねません。以下、よくあるミスを整理します。

● 住所を書いてしまう(地番の誤記)

相続手続きで土地は原則、「住所」ではなく「地番」で管理されています。

「住所」はいわゆる住居表示で、私たちが日常生活で使っている住所です。遺言書で譲り渡す不動産に関して、この住所を書いてしまうと、不動産が正確に特定できないということになってしまいます。法務局は登記申請を受け付けません。結果、改めて不動産を特定する調査が必要となり、遺言の実現が大幅に遅れることになります。

● 複数筆の土地を「1つ」としてしまう

土地を登記する単位は、1区分の土地につき「筆(ひつ・ふで)」です。たとえば、自宅の土地が1筆だと思っていたものの、登記上は数筆だったということがあります。

そのようなケースで、遺言状に1筆分の土地しか表記しなかった場合は、他の筆が表記漏れとなり、相続の対象とはみなされないという事態になってしまいます。

また、自宅の敷地の土地については遺言状に書き入れたものの、別の筆となっている私道(公衆用道路)部分を忘れてしまうといったこともないように注意することが必要です。

筆の書き漏れがあると、その部分は法定相続分で共有状態となり、相続人同士の調整が発生することになってしまいます。

● 建物の記載漏れ

土地だけ書いて建物を書かない遺言がよくあると言われています。

もし建物について書き忘れると、「土地は長男へ、建物は法定相続で共有」という意図しない結果になってしまいます。

また建物には「家屋番号」が割り振られているので、遺言書には家屋番号も書き込むことが必要です。

● 「相続させる」と「遺贈する」の混同

相続人へ渡す場合は「相続させる」。相続人以外に渡す場合は「遺贈する」。

この渡し方の表記を誤ると、解釈をめぐって相続手続きが複雑化してしまい、受取側に思わぬ負担が発生してしまうことがあるので注意しましょう。

不動産は遺言書への書き方ひとつで法的効果が変わってしまう財産です。たとえ形式が整っていても、内容が実務にそぐわなければ、相続後に大きなトラブルの元になりかねません。

記載ミスが引き起こすトラブル

不動産の記載ミスは、遺言書があっても相続が円滑に進まない原因になります。

まず、地番や家屋番号の誤りによって不動産が特定できない場合、相続登記が受理されません。その結果、遺言の効力を確認しながら、相続人全員で遺産分割協議をやり直す必要が生じます。

また、筆の書き漏れがあれば、書かれていない部分は法定相続となり、共有状態が発生してしまいます。共有になると、売却する場合に共有者全員の合意が必要になったり、維持管理も共同で負担することになったりと、対応がとてもやっかいになってしまいます。

さらに、「相続させる」と「遺贈する」を誤った場合、相続人以外に渡す際に受贈者の承諾が必要となったり、手続きが複雑化したりします。

本来、遺言書は遺言者の思いを確実に届けるためのものです。しかし記載ミスがあると、逆に家族の負担を増やし、意図しない対立を生んでしまうことがるのです。

記載ミスを防ぐ5つの対策

記載ミスを防ぐ方法は、実は多くありません。大切なのは、次の基本を確実に押さえることです。

① 登記事項証明書で不動産の情報を正しく確認する

遺言書を作成する際は必ず登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、地番、家屋番号、地目、地積、複数筆の有無、などを確認しましょう。

これらを確認しなければ、正しい遺言書は書けません。

② 登記事項証明書の表記をそのまま転記する

確認した表記をそのまま遺言書に転記します。特に、住所表記ではなく地番で、建物を忘れずに表記、土地の筆を忘れずすべて書く。これらに注意して丁寧に作成します。

③ 書き方の法的効果を理解する

相続なら「相続させる」。遺贈なら「遺贈する」。この書き方は特に注意が必要です。言葉ひとつで登記手続きや税務処理が大きく影響を受けてしまうからです。

不動産は金額も大きく、家族関係への影響も大きいため慎重に遺言書を作成することを心がけましょう。

④ 数年に一度は見直す

いったん法務局に保管制度で預けたとしても、財産状況や家族の事情は刻々と変わります。できれば数年に一度は遺言書の内容を見直し、必要な変更や改正をした遺言書を新たに保管し直すといったことも考えましょう。

⑤ 専門家のチェックを受ける

不動産は複雑な財産で、登記・税務・分割などいくつものチェック項目があります。司法書士・税理士・不動産の専門家と連携することで、よりよい遺言書に整えることができます。


まとめ

法務局の遺言書保管制度は、紛失や改ざんを防ぐ手段として非常に有効です。しかし、中身となる遺言書の記載が正しくなければ、本当の安心は手に入れられません。

特に不動産は、地番の誤記・複数筆の見落とし・建物の記載漏れ、といった落とし穴が多く、形式が整っていても内容が誤っていれば、遺言は「思いの届かない」ものになってしまいます。

確実に財産を遺すために必要なのは、形式(保管制度)+ 内容(正確な記載) の両方を整えることです。
そして、ときどき見直し、専門家と連携しながら仕上げておくことです。

遺言書は家族への最後のメッセージです。
正しく書かれた遺言書こそが、相続を穏やかに、そして確実に進めてくれるのです。

Contact お問い合わせ

まずは無料のご相談

「相談診断サービス」(無料)もご利用できます。
セカンドオピニオンとしてもご活用ください。

お問い合わせ 電話