実家が「空き家予備軍」 相続前にできること

「お母さんの家、将来どうするつもり?」
「まだ元気だし、そんなの相続のとき考えればいいでしょ」
こんな会話をしたことはありませんか?
親が元気なうちはついつい後回しにしてしまう「親の家」のこと。
相続が発生した際に、「親の家」=ご実家が空き家になってしまうことが増えています。
このような、いわば「空き家予備軍」は将来の大きな課題となるリスクを持っています。
このコラム記事では、空き家が抱える課題や、親が元気な今だからできる具体的な対策などをわかりやすく解説していきます。

親の家が空き家予備軍になるリスク
2023年の総務省の調査では、日本の空き家は900万戸を超えました。
中でも売却や賃貸用に一時的に空き家となっている住宅や別荘などふだん人が住んでいない住宅を除いた、「まさに使われていない住宅」が増え続けていることが大きな問題となっています。
空き家が発生する最大のタイミングは相続です。
相続した親の家をどうしたらいいかわからず、空き家になってしまっている状況が多く見受けられます。
→詳しくはこちらのコラム「『その他空き家』という本当の課題」
このような背景から、国も65歳以上の単身高齢者を「空き家予備群」として、
亡くなった後にその住宅が空き家になることを防ぐ対策を進めています。
将来、空き家になる可能性が高い住宅は「空き家予備軍」と呼ばれます。
高齢者(65歳以上)の単身世帯、つまり「おひとりさま世帯」は世帯全体の3分の1を占めていて、増加傾向が続いています。(内閣府「高齢社会白書(2024年版)」)
おひとりさま世帯では、親が元気なうちからすでに「空き家」化のリスクが生まれています。
たとえば、
・高齢となり家の手入れが行き届かない
・建物が老朽化している
・将来、誰も住む予定がない などです。
こうした「空き家予備軍」は、相続の後に高い確率で空き家となり、相続人による管理が不十分だと、安全面や防災面でのリスクなど空き家特有の問題を抱えてしまうことになります。高い確率で「管理できない・使わない家」になってしまいます。

空き家が抱える「お金」の課題
空き家にはさらに、「お金」の課題が発生します。
放っておくと、想定外の出費や思わぬ赤字に悩まされることになってしまいます。
固定資産税の増加
土地や建物には固定資産税という税金がかかります。
住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用され、一般的な200㎡までの土地では課税標準額が6分の1に軽減されます。
このため、空き家が建っている土地でも、通常はこの6分の1の特例が適用されます。
しかし、空き家が管理不全の状態になり、行政から「特定空家」や「管理不全空家」に認定されてしまうと、この特例がなくなってしまい、固定資産税が増加してしまうのです。
6分の1の特例がなくなるといっても、固定資産税がすぐに6倍になるというわけではありませんが、負担がこれまでよりも重くなることはたしかです。
保険に入れないリスク
火事や台風、地震での被害が心配なので、保険に入ろうと思っても空き家は、住宅用の火災保険に入ることができません。住宅用の火災保険は人が住んでいることが条件となっているからです。
また、空き家は地震保険にも入れません。地震保険は火災保険に付帯して加入するものだからです。
そのため、保険に入る場合は住宅向けに比べて割高の保険に加入することになり、保険料の負担が増えることになります。が非常に高額になることがあります。
→詳しくはこちらのコラム「空き家の『盲点』 保険に入れない」
売れない・貸せない・壊せない
いざ、空き家となっている実家をどうにかしようと思っても、思いどおりにいかないというリスクがあります。
売却したいと思っても、残置物が大量に残っていたり、傷みが激しい場合は、なかなか買い手がつかず、売却にかなり時間がかかってしまいます。
また、名義人が複数になるような相続をした場合は、売却では共有者全員の合意が必要なので、とりまとめに手間がかかってしまうかもしれません。
賃貸しようと思っても、家の状況がよくない場合は修繕や補修が必要となり、想定外のリフォーム費用がかかってしまうこともあります。
では、解体しようと思っても、やはり残地物が問題になることもありますし、解体自体にも大きな費用がかかります。古い家は買い手がつかないことも多く、リフォーム費用がかさんだり、解体費が数百万円単位で必要になることも。
このように空き家には「お金」に関するリスクも多くあるのです。
親が元気なうちにできること
こうした空き家リスクを避けるために、親が元気なうちにこそ対策を講じておくことが大切となります。
「空き家予備軍」の状態を抜け出すことができるかもしれません。
具体的な対策には次のような選択肢が考えられます。
早めに売却する
親に住み替えてもらい、家は早めに売却するという選択肢があります。
売却した資金で、親の住み替え先を準備したり、相続に備えたりすることができます。
さらに、将来の維持管理の費用を心配することもなくなります。
親の住み替え先をどうするかについては、ご家族で十分に話し合っていただき、親のご意向も踏まえて決めることになると思います。
子と同居、別の物件に引っ越し、施設に入るなどの選択ができそうです。
賃貸として活用する
賃貸物件にして活用するという選択肢です。
やはり親の住み替えが必要となりますが、お一人暮らしで広すぎる、使いづらいといった状況になっていれば、適度な広さで生活しやすい場所に引っ越すことが、親にとっても快適な暮らしにつながるかもしれません。
持ち物整理のよいタイミングにもなりますし、もちろん賃料収入も期待できます。
一方、賃貸するために持ち物を片付ける費用や、家の状況によってはリフォーム費用などの負担がかかるかもしれないので、諸条件を考慮して総合的に判断することが大切です。
やはり引き継ぐ
これまではそのつもりはなかったかもしれませんが、ひょっとしたら子が引き継ぐという状況が浮上するかもしれません。
親が元気なうちに同居を始める、あるいは将来的に子がその家に住むということになれば、リフォームや修繕の費用がかかるかもしれませんが、空き家にすることを防ぐことができます。
相続の際には小規模宅地等の特例を利用しやすくなり、相続税の負担を大きく軽減することができる可能性もあります。
また、生前贈与を利用して早めに名義を移すことを検討することもできますが、税の負担など幅広い視野で考慮する必要があるので、専門家に相談するのがおすすめです。
今だからこそ家族会議
親の家をどうするかという話を切り出すのは、実際には勇気がいると思います。
ですが、いざという時は、唐突にやってくるかもしれません。
だからこそ、元気な今が、ちょうどよいタイミングです。
親御さんと「家のこれから」について率直に話す場を持つことが、大切な財産と家族関係を守る第一歩になります。

まとめ:「空き家予備軍」にならないために
空き家は、ただの放置された家ではありません。
実はお金を生むかもしれない不動産が、お金と心をすり減らす「負動産」になってしまうこともあります。
ですが、親が元気な今だからこそ、できることがあります。
さまざまな選択肢を家族で冷静に話し合うこともできます。
その一歩が、「空き家予備軍」を未来の財産に変え、将来の安心と納得につながるかもしれません。