「所有者不明土地」はなくなるか

「所有者不明土地」が社会問題になっています。
たとえば、道路を整備したい、防災工事をしたい、開発事業を手掛けたいといった際に、
土地の所有者がわからないと、何も進められないからです。
そんな経済的な機会損失をなんとかしようと、国はさまざまな対策に乗り出しています。
今回は、2026年に始まる「住所変更登記の義務化」についてもわかりやすく解説しつつ、
そうしたの対策で「所有者不明土地」は本当になくなるのかについて考えていきます。
所有者不明土地の問題
所有者不明土地とは、次のような土地のことを指します。
①登記簿を見ても所有者が誰かわからない
②所有者がわかっても連絡がとれない
こうした「誰のものかわからない土地」は、私たちの生活にも影響を及ぼしかねません。
たとえば、道路や公園の整備、防災工事、災害の復旧工事、土地開発事業などをしたい時に、
土地の所有者がわからないことで作業が進まず、経済的な損失につながります。
また、土地が管理されずに放置されることで、近隣への悪影響も発生しかねません。
2020年の国土交通省の調査によると、全国の所有者不明土地の割合は24%にのぼります。
さらには九州の面積に匹敵するという報告もあります。
→法務省「所有者不明土地の解消に向けて…」(2021年)
所有者不明土地ができる理由
登記簿上で所有者がわからなくなってしまう理由は、3つあります。
相続時に登記しない
土地を相続した際に、所有者の変更を登記しないケースです。
登記簿で所有者が不明となる原因で最も多く、63%を占めます。
住所を変更した際に登記しない
引越しをした際に、住所変更の登記をしないケースです。
原因の33%を占めます。
売買等で登記しない
その他の原因としては、売買など土地の取り引きをした際に、何らかの理由で登記をしなかったなどです。
このような理由で所有者が不明となってしまった場合に、
所有者を探そうとすると時間や費用が想定外にかかってしまうことにもなります。
相続登記をしていなかったようなケースで、その後に何世代かの相続が重なっていき、
相続人が枝分かれして増えていったことで、所有者が240人にもなっていたという土地もあったそうです。
いざ、その土地を売却しようとしても、全員の合意を集めるだけでたいへんな労力がかかります。
登記が義務化される
これまで相続、売買、住所変更などの登記は「任意」でした。
登記には登録免許税という税金や司法書士への報酬など費用(数万円〜)がかかります。
「『しなくてもいい』のなら『お金もかかるし』しなくてもいいよね」という人が
多かったのではないでしょうか。
こうしたことから、国は不動産登記法を改正して、登記を「義務化」したのです。
相続登記については、怠った場合に、最大で10万円の過料が課される可能性があります。
詳しくは以前のコラム記事をご参照ください。
→「相続で不動産の名義変更が大切なわけ」
「住所変更」登記も義務化へ
一方、引越しなどで住所が変わった際の住所変更や結婚などで氏名が変わった際の氏名変更についても、
2026年4月1日から登記情報の変更が義務化されます。
住所や氏名の変更日から2年以内に変更登記をしないと、
5万円以下の過料という行政罰を課される可能性があります。
2026年4月以前の住所変更や氏名変更も対象で、2028年3月末までに登記することが必要です。
「スマート変更登記」が始まる
こうした登記の義務化にともない、「スマート変更登記」が2025年4月21日から始まりました。
「スマート変更登記」とは、法務局が住民基本台帳ネットワークや戸籍データと連携し、
住所変更登記の手続きを一部自動化するものです。
引越しや結婚などの際に、あらかじめ法務局に「検索用情報の申出」をして登録しておくと、
法務局が変更の事実を確認し、本人の了承を得たうえで、「職権」で変更登記する制度です。
本人が登記をする必要がなく、費用はかかりません。
法務局からはメールで連絡が届いて、これに承認するだけなので負担も軽いといえます。
注意点と課題
登記の手続きには、住民票や印鑑証明書などの書類を揃えたり、費用もかかります。
司法書士などの専門家に相談しながら進めるとスムーズです。
所有者不明土地はなくなるか
登記が義務化されたことで、時間はかかるかもしれませんが、
所有者不明土地はかなり減ると予想されます。
また、相続した土地が「手に余る」ようであれば、国に引き取ってもらう制度もスタートしました。
詳しくは以前のコラム記事をご参照ください。
→「意外と使いづらい 相続土地の『国庫帰属制度』」
土地をしっかりと活用する社会のためにも、所有者を明確にすることは大切です。
相続登記や住所変更登記については、不動産業者も顧客に正確な情報を提供することが求められます。